最初は「ありがとう」だけだった
渡したのは使い勝手のよさそうなエコバッグと、サイズがちょっと大きすぎた巾着ポーチ。「なんかもらっておくね」という感じで受け取った母は、特に付録への興味はなさそうだった。むしろ「雑誌って今でも付録つくの?」という感じで、そちらに驚いていた。
私も渡したきり忘れていた。1ヶ月ほど経って実家に帰ったとき、母がそのエコバッグを使っていた。「使えてる?」と聞いたら「丈夫で気に入ってる」と言った。それだけで会話が終わった。このときはまだ何も起きていない。
2ヶ月後、「次の付録はいつ出るの?」と聞いてきた
電話がかかってきたのは、渡してから2ヶ月ほど後だった。
母から突然の電話
「あのエコバッグ、もう1個欲しくて。どこで買えばいい?」と聞いてきた。「あれ付録だから同じの売ってないよ」と答えたら、「じゃあ次はいつ似たようなのが出るの?」と言った。「調べないとわかんない」と答えたら、「教えてくれる?」と言ってきた。そこから何かが始まった気がする。
そのとき初めて、母に付録の仕組みを説明した。雑誌に付いてくること、毎月号ごとに変わること、ブランドコラボの場合は早めに行かないと売り切れること。母は「へえ」と言いながら、思ったよりしっかり聞いていた。
3ヶ月後、私より詳しくなっていた
次に実家に帰ったとき、テーブルの上に雑誌が2冊あった。母が自分で買っていた。付録目当てで。
しかも内容を確認してみたら、私が「今月のおすすめ」として頭に入れていた号と1冊が被っていた。どうやって調べたのか聞いたら「スマホで検索したらすぐわかった」と言った。そりゃそうだ。
さらに「あのブランドの付録は素材がしっかりしてていいのよ」という発言まで出てきた。1ヶ月前まで付録の存在自体を知らなかった人が、ブランドの比較評価をしている。人間の吸収力はすごいと思った。
「丈夫で気に入ってる」の一言が、すべての始まりだった。付録が一人の人の習慣を変えるのに、2ヶ月もあれば十分だ。
母が付録にハマった理由を考えてみた
なぜ母がそこまでハマったかを考えると、いくつか思い当たることがある。
まず、母は「買い物の得」が好きだ。雑誌1冊の値段でブランドのバッグが手に入るというのが、シンプルに刺さったんだと思う。「これ、普通に買ったら高いのよね」という感覚が、付録への興味を引き出した。
それと、最初の一個が「本当に使えるもの」だったのが大きかった。安っぽいものや使い勝手の悪いものだったら、ここまでハマらなかったと思う。最初の体験が良かったから、「次も試してみたい」になった。
あと単純に、私と話せる共通の話題ができたのが嬉しかったんじゃないかと思う。付録の話をすると会話が続く。それは私も同じで、電話する理由ができた。
今は一緒に書店に行く
この前、実家に帰ったついでに近くの書店へ母と一緒に行った。私は今まで一人で付録を選んでいたから、誰かと一緒に棚を見るのが新鮮だった。
母は手際よく「これ素材どう思う?」「このブランド先月も出てたわよね」と言いながら手に取っていた。私が「このポーチかわいい」と言ったら「でもファスナー弱そうじゃない?」と即座に返ってきた。完全にライバルだった。
帰りに母が「また来月一緒に来る?」と言った。付録をきっかけに実家に帰る口実ができてしまった。これはこれで悪くないかもしれない、と思いながら電車に乗った。
